さく聞えて来る。私の身代りにこの室へ来たのかも知れぬ。物凄い城門の音に送られて、此処へ来る不幸の人は、女ならば機を織り男ならば琴を弾《ひ》き、一生を此処で暮らさにゃならぬ。(機糸を眺め)ああまた白い糸が切れたそうな。後に残ったは黒と黄との二色ばかり、私はこの糸の切れるまで、此処で機を織らねばならぬ。そして二色の糸の切れた時、私は静かにこの室を出て、あの塔の影となる。それが私の命の預言。(と機に手をかけ、織りながら歌う)
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人生を織り行く梭の
絶ゆる日に琴の音鳴らん、
七筋の調べの弦《いと》に
黄なる糸|運命《さだめ》の糸を
ひきかけて
鳴らさんものか。
(その日のために)
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(第三の城門の開く音間近く聞こゆ。女子織る手をとめる)
女子 黒い糸もまた切れた! (と決心せる如く機《はた》より立ち離れ、場の中央に立ちて下手の口の堅き鉄の扉を見詰む。――扉の外にて軽き足音聞こゆ)
女子 軽い足音がする。このもの寂しい室へ来るには、あまりあどけない[#「あどけない」に傍点]足音だ、小供の足音だ。
(足音近づくと共に、七弦琴の音聞こゆ)
女子 (耳
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