て、十字を切りて葬礼の姿を現わす。――Fなる魔法使いは正面の口より出でんとし、斜に姿を観客に見せる。従者は床に伏して泣く。鉦の音。哀しき歌)
Fなる魔法使い 誘惑より勝るものが此処にある。
(銀の竪琴をかき鳴らし)この音の響く方へ俺は行こう、そこで再び女を試みよう。(間)けれども此処へはもう来まい。此処には俺より強いものがある。
(再び銀の竪琴をかき鳴らす。その音場に充《み》つ。音と共にFなる魔法使い退場)
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その日のために


場所 一室
人物 女子
   その弟(ヨハナーン)
   巨人
   影の人(多数)

          一場

一室。四方灰色を以て塗る。天井より青白き光線さし下る。左右に口ありて堅き鉄の扉を以て閉ざす。室の正面中央に大なる窓。窓には鉄の格子あり、黒き掛け布ありて半ばしぼられたり。窓を通して陰鬱なる高塔見ゆ。塔の下は水門にして濁水そこに流れ入る。窓に対して一台の織機《はた》あり。一人の女子その機を織る。綾糸は、青、赤、黄、白、黒の五色とす。糸は天井より垂れ下る。
夕暮。
女子 (機を織りつつ歌う)

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美しき色ある糸の
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