(領主を見て)お前を救ったあの老人へか、(柩の中の公子を指し)鈴蘭の花の送り主か、(自分を指し)紫の袍を着た、銀の竪琴を持った、Fなる魔法使いのこの俺か!
領主 (熱心に)我に与えよ!
従者 お殿様へ差し上げなされませ。
騎士・音楽家 (声を揃え)公子に与えよ、最後の勝利者の公子に与えよ!
小供一同 (声を揃え)公子様へ、公子様へ!
Fなる魔法使い 我に与えよ、血薔薇の送り主なる我に与えよ。
(女子は月桂冠を胸に抱きしまま失神せるものの如く彳《たたず》む。室内静。女子引きつけらるる如く公子の柩に近づく。時に、何処よりともなく哀怨の調べにて「死に行く人魚」の歌聞こゆ)
女子 (突然悲しき声にて)人魚、人魚、死に行く人魚! (と柩の上へ身を蔽い)若様! (燈火一時に消え、月光青く窓より入る、女子悲しげに叫ぶ)
女子 若様、若様! 私も貴郎と一緒に参ります、遠い遠い海底へ……。
(声細り行くと共に、場中再び明るくなる。見れば、女子は柩の中の公子を抱き起こし、かかえしままにて気死す。公子の頭には月桂冠あり。領主は気死せる女子を支えて片膝をつき。騎士、音楽家及び小供と使女の大勢は、それぞれの形に
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