る魔法使いがそこにいる!
(一同Fなる魔法使いに注目す)
領主 曲を盗んだ悪魔は嬢をも盗んで行こうとする。見ろ! 彼は嬢をかかえている。
(一同楽器を棄てて剣を抜く。光茫場にあふる)
Fなる魔法使い (冷やかに鋭く)俺の頭を見ろ! (月桂冠を指し)月桂冠を得たものは、女子をも共に得べきものだ! 俺の頭には月桂冠が輝いている。(女子を見)女子は俺のものだ!
領主 月桂冠は、死んだ若《わか》が戴くべきものだ! 汝の歌った一曲は、若が歌うべき「死に行く人魚」の歌ではないか。(鋭く)盗める曲に何を与う!
騎士・音楽家 (声を揃え)盗める曲に何を与う!
小供一同 (声を揃え)盗める曲に何を与う!
領主 (柩の蓋《ふた》をはずし、死せる公子の姿を現わす、屍は白き花を以て飾られたり)この屍に罪を謝し、疾《と》く月桂冠を取りはずせ!
Fなる魔法使い (悠然と月桂冠をはずし)最大の悪、最後の手段! それが盗んだ曲である。(月桂冠を高くかざし)天にありては月、地に咲きては花、桂の冠がわが手を離れ、(女子を見て)一人の女の手に渡る。(と女子に冠を渡し)女よ、それを誰に与える。それを得たものがお前の良人だ! 
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