だかおかしいぞと思って二つの指で挟んでみて、おやおやと引きずられるままにそれをまさぐっていたかと思うと、
「なあんだ!」とあきれ返ったように叫びながら、彼は首筋の所へおいかぶさっているものを慌てて払いのけるのと同時にはね起きた。それはがさがさと物音をたてて吹っ飛び温突《オンドル》の上で揺れている。他ならぬ、泥まみれになった桃の枝だったのだ。彼はふーと大きく息を吐き出し手で首筋の汗をふいていたが、急に気でもふれたようにけらけらと笑った。が、瀬戸物でもこわれたような自分の声までちっとも変っていないので、彼はいよいよもう大丈夫だと胸を撫で下した。
むさくるしい部屋の中が尚薄暗いところからすれば、まだ朝は早いようである。一日中これっぽっちも陽の当らない穴ぐらのような所ではあるが、でも彼には紙張障子の明るさ加減が時計のかわりになっていた。裏の方に続いた台所の土間では、老婆が今日も亭主と喧嘩をしているらしく何かを突慳貧《つっけんどん》に喚きたてながら焚口に火をくべていた。土間に一杯たちこめた煙が温突紙のやぶけたところや、障子の穴、壁の割れ目等からもやもやと侵入して来る。彼は息がむせるようで二三度
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