天馬
金史良
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)廓《くるわ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)それ故|娑婆《しゃば》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)以上[#「以上」に傍点]
−−
一
ある重苦しい雲の垂れこめた日の朝、京城での有名な廓《くるわ》、新町裏小路のとある娼家から、みすぼらしい風采の小説家玄竜がごみごみした路地へ、投げ出されるように出て来た。如何にも彼は弱ったというふうに暫く門前に佇《たたず》んで、一体どこから本町通りへ抜け出たものかと思案していたが、いきなりつかつかと前の方の小路へはいって行った。けれど界隈が界隈だけに、地に這うような軒並のいがみ合っている入りくんだ小路の、どこをどう通れば抜け出られるか皆目見当がつかない。右に折れるかと思えば又左の方へはいって行く。やっと左から出て行くと又路地は二つに岐《わか》れて立ん坊になるといった工合である。何か深い物思いに沈んで彼はてくてく歩き続けたが、袋小路などに突き当って、はっと思い、辺りを見廻したりした。前といわず、横とい
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