人は皆自分の民族の悪口ばかり云って来るがそれが先ず第一いかんことじゃ。分ったか。もちろん反省し自分達の悪い点をなおすことは肝腎じゃ。だが自分を大事にしなくちゃいかん。大事に。それが出来ないのが、他の民族に劣る点じゃ。内地人を御覧! 内地人は決してそんなことはない」
「そうですよ、だってそうじゃないですか」と玄竜は慌てふためきつつ何の前後脈絡もないことを叫び始めた。彼は自分が何時か書いたことのある、至って学術的な文句を先から思い出してそれで頭が一杯だったのである。「少くとも地理的にみても、考古学的にみても、それから人類学的にみても、即ちアントロポロジー的にみても、生物学的にみても……」
 こうしきりに並べたてる時、角井ははたと学者的な良心に突き当ったので、
「それは君、アントロポロジーじゃなくてアントロポロギーだよ」と訂正した。
「そうですよ、そのアントロポロギー的にみても、又フィロロギー的にみても日本と朝鮮は男と女の相違しかないんです……」
 大村は彼のこのペダンチックな慌て方がおかしくてひとりでにやにや嗤っていたが、ふとそれを見た玄竜はもう大村が自分の熱情に気をよくし直したのに違いな
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