を考えると悲しくてならないんだ、田中、おう君、僕の気持を分ってくれるか!」
 彼は声を出してよっぽど泣こうかと思ったが、ただ手で顔をおおうてしゃくり上げただけである。田中はすっかり感動して、
「分るとも、分るとも」
 と共に泣く気持になり、やはり朝鮮にも来てよかったと思うのだった。内地にくすぶっていては島国文学しか出来ないと云うのは全くだ。ここに大陸の人々の苦しむ姿がある。箸にも棒にもかからないような男だった玄竜でさえ、もっと大きな本質的なもののために全身をゆすぶって悩んでいるではないか。そうだ、これこそ朝鮮の知識階級の自己反省として内地に報らせよう。尾形に俺の目が負けてはなるものかと力みつつ沁々《しみじみ》歓びを感じた。支那人は分らんと云う連中は愚の骨頂だ。朝鮮人を僅か二日で分ったこの調子でなら、俺は四日位で充分分ってみせるぞ、とも心の中で叫んだ。兎も角それのためにはいきおい玄竜を朝鮮の代表的なインテリにして書かねばなるまいとまで、頭でちゃんと構想をねっていた。が、角井にしては玄竜のことが滑稽でならないので、とうとう凱歌を上げたい気持になって意味ありげに彼の方をじろりと見やってから、
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