。
「君は帰ってからは朝鮮語で小説を書いていたんだってね」
「そうだよ、そうなんだよ」と玄竜は待っていたとばかり有頂天になって叫んだ。「僕は朝鮮に帰るなり素晴しい作品を矢継早《やつぎばや》に出したんだ。始めは野郎たち朝鮮にも天才のランボウが現われたと云って、目を丸くしやがった。だがだんだんと僕の読者がふえ地位も高まって来ると、文壇の奴等は嫉妬して葬ろうとさえしたんだ。大体君も見れば分る通り朝鮮人ちゅうのは仕様がねえんだ。いいか。狡くてそれに臆病なんだから党派を作って人が偉くなろうとすると突き落すんだ」その時角井はそれごらんと云わぬばかりに田中に向って顔をしゃくってみせた。田中は肯いた。
「奴等は僕が東京文壇で皆の注目をひいて活躍していたことさえ知らないんだよ」そしてちらっと角井の方を偸《ぬす》み見て、「無知だよ、全く無知だよ!」
内地人と向い合った時には一種の卑屈さから朝鮮人の悪口をだらだらと述べずにはおれない、そうして始めて又自分も内地人と同等に物が云えるのだと信じ切っている彼である。いよいよ玄竜は火のような熱情に燃えて激しい息づかいをしながら叫んだ。
「僕はこういう度し難い民族性
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