病でひがみ根性があり、おまけに図々しくしかも党派心の強い種属ということである。丁度そのいい標本が田中も東京から知っている玄竜だと述べていた。それ故東京の或る知名な作家尾形が京城へ立ち寄った際、大村の肝煎《きもい》りで朝鮮の幾人かの文人達と一席を設けたところ、その席上で三十分もせぬ中に彼が玄竜の中に朝鮮人全部を見てとったのは、さすがに鋭い芸術家の烱眼《けいがん》だと讃嘆して附け加えた。尾形がここに朝鮮人ありと叫びながら玄竜を指差した時、実のこと、朝鮮の文人達は全く唖然とせざるを得なかった。が、当の玄竜はいかにも得意そうににたにたと悦に入っていたのである。田中は僅か一両日の滞在でしかも酒にばかり追い廻されて観察どころではないが、尾形に負けない程辛辣独特な観方をして書き送らねばならないと決心していた矢先なので、寧ろ代表的な朝鮮人と角井から太鼓判を捺された玄竜にひょっくり再び会ったことを幾らかは悦んだ。彼は角井の悪意に満ちた言葉に些《いささ》かも疑いを挟まなかった。いよいよ自分の直観の鋭さを示す時が来たと躍起《やっき》になって、彼は今度は朝鮮民族を検分するかのような物腰で自分から先に口を切った
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