彼も亦口では内鮮同仁(日本帝国主義の植民地政策の一つで、朝鮮民族を日本人に同化させるためのスローガン)を唱えながらも、自分は撰ばれた者として民族的に生活的に人一倍|下司《げす》っぽい優越感を持っている。だがただ一つ芸術分野の会合等に出ると、自分が朝鮮の文人達のように芸術的な仕事を何もし得ないことにひけ目を感じ、弾《は》ね返っては彼等を憎々しくさえ思っているのだ。それで特に朝鮮の文人達を莫迦にしようとこれ努め、内地から誰か芸術家でも来ると玄竜にひけをとらぬ程の熱情で授業さえ休んで出掛け、加俸の分だけを惜しいともせずに方々引張って酒を飲ませながら、事毎《ことごと》につけて朝鮮人の悪口を学問的な言葉で並べたて、口癖のように、あ、あれを見て安心した等と呟く。今夜は殊にこういう最も卑しむべき文人の玄竜に会ったので、いよいよ彼の自尊心は増長したのである。それでいかにも物々しく肩を聳《そびや》かしてくんと吠えながら背を向けてしまった。だが玄竜もさる者それには振り向きもしないで、依然田中を掴まえたまま喚きたてていた。
「おう田中、僕はな君を捜し廻ってすっかり草臥《くたび》れ、さんざん恨みながら飲んでい
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