で翻訳されたのを読んで私は先ず安心しましたね。すっかり安心しましたよ。それ位なら私のような素人でも書けますよ。朝鮮の地方的な文化もやはりここへ来ているわれわれの手で築き上げるべきもんですな。ところでさあ、一つどうです」
と盃を取り上げた。
やっとその時になって玄竜は横合いの方から臆病そうに首を突き出し、慌てたように朦朧《もうろう》とした目をこすって見据え、口をばっくりと開けた。実にそれはまぎれもなく東京の田中が、ある官立専門学校教授の角井に案内されていたのである。盃を口に持って行っていた彼等二人も、玄竜に気が附いてびっくりした。
「やあ田中、田中!」と玄竜は叫びつつ大手を拡げて、すぐ傍のひょろひょろした体へ抱き附いてしまった。他の客や女はみな驚いて目を瞠《みは》りこの異様な光景に魂消《たまげ》た。内地人をそんなふうにして果していいのだろうかと気味悪くさえ思うのである。田中は一目でそれが先程大村や角井と三人で噂し合った玄竜であることを知ったが、あまりにも意外な場所での邂逅と突拍子もない抱擁に面喰らってしまった。何よりも息がつまりそうで苦しかった。玄竜は彼を抱いたまま狂気のようにぐるぐ
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