出した。或は彼自身が云っているように、本当に柔道初段以上[#「以上」に傍点]のために広過ぎる程の肩が凹み込んでいるのかは知らないが、がに股はあの妙な電信柱を知るようになって以来のことだった。殊に救いのないような孤独と深い憂悶の中に捉われている今の彼である。けれどとうとう明治製菓の近くに来るまで、ついぞ誰一人にも会うことが出来なかった。その時ふとこの明菓で開かれた昨夜の会合のことが思い出される。「貴様こそ朝鮮文化の怖ろしいだにだ!」と叫んで、皿を投げて来た評論家李明植の鋭い顔がすうっと閃《ひらめ》いて見える。彼は思い深げにその入口の前に立ち止ると、へん、青くさい野郎奴、今こそ豚箱で……とにやり薄笑いを浮べた。それからどれ、一つはいってやるかなという気になったらしく、急に胸を張り肩を怒らして慌しげに扉を押してはいって行った。ホールの中はがらんどうで、隅っこに僅か二人の外交員風の男が向い合って、ひそひそ何かを話し合っているきりである。玄竜はその真中の方へ徐《おもむ》ろに進んで行きどっかり坐り込むと、給仕の女の子を手招き寄せ暫くじいっと顔を見上げていたが、女の子が気味悪げに赧《あか》らむのを見
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