裏あたりの大分淋しいところまでやって来た時は寸歩も足を運ぶことが出来ないまでにくたくたに疲れ、一先ずそこらのとあるきたならしい立飲屋へ潜《もぐ》り込んだのである。埃っぽい明るみの中では、みすぼらしい人々が各々二三人ずつ一団をなして相寄りかたまってがやがや騒ぎ立てつつ盃をかわしていた。玄竜は桃の枝を担いだまま皆の驚きの視線を浴びながら、中央正面の方へのっそり進み出た。前の方に長い板で酒台が据え附けられていて、その向うの方に顔の小綺麗な女がちょこなんと坐っていた。彼は台の上に出してくれる大きな盃を取って、女から薄黄色っぽい薬酒をついで貰うなり一杯ぐっと飲み干した。それは妙にすっぱい味だった。顔を上げて辺りをじろっと一度眺め廻したが誰一人とて知る者はいない。他の人達は彼と視線がかち会うとびっくりしたようにぐっと口を噤《つぐ》んでそっぽを向いた。玄竜はそのため一層不機嫌になり、もそっと動いて行って、傍の方に据えてある網張り棚の中から豚の足を取り出して来るとむしゃむしゃ噛み始めた。それは朝鮮特有の安直な酒場で、茶碗程もある盃一杯に肴までついて唯の五銭で飲めるのだった。彼はあの好きな明けすけの淫ら
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