中で頭をお互いぶっつけ合いながらもがき出した。玄竜はそれを振り返ってひひひと嗤いかけたが、ふっと涙がこみ上げて慌てて腕を上げてふいた。
 裏小路に出ればそこは所謂《いわゆる》鐘路裏で、カフェー、バー、立飲屋《ソンスルチビ》、おでん屋、麻雀屋、周旋屋、飲食店、旅館等が、目をぴかぴか光らせたり、口を開けたり、尻ごみしたり、地べたにひっつくように蹲《しゃが》んだりしている。ぎーぎーとレコードが騒々しく辺り一面で唸り立て、洋服や白い着物がうろつき廻っている。景気のいい商人や、総督府あたりの朝鮮人雇員、無職で金のある青年、モダンボーイ、そしてカフェー音楽家、バーマルキスト等が、夜はよくこの界隈で気焔を上げるのだった。中には大枚をばらまきに来た金山男もいる。いよいよ目的地へ来たぞと玄竜は考えた。たとえ田中が大村に案内されていないとしても、誰かに連れられてきっとこの界隈へ朝鮮色を満喫するために来ているに違いなかった。成るべくは大村君と一緒でないようにと……彼はこう念願しつつ一つ一つ飲み場へ首を突き入れて調べてみることにした。その後をやはり子供達はにやにや笑いながらついて来る。彼はたとえ自分を尊敬する
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