得たからである。混沌とした朝鮮が僕のような人物を必要として生み出し、そして今になっては役目が尽きると十字架を負わせようとするのだ、彼はそういう自覚に立ち至ると益々悲しみが胸をつき上げて来て、どうっと慟哭したい位だった。けれどそういうことも束の間、歩道一杯の人々が驚いたように皆自分の異様な恰好を眺めているのに気が附くと、寧《むし》ろ今度はけろりとしていささか得意にさえなったのである。へっぽこ詩人の女郎奴、貴様がついて来たら本当にこの僕の天外な像が分っただろうに、莫迦な女郎奴と彼は心の中で文素玉を憎々しげに罵った。夜店の前は押すな押すなの込み合いである。先からの乞食の子供達は面白そうに五六名後をついて行った。その中に突然前の方で喧嘩が始まったとみえ騒ぎ出したので、彼は避けるようにして少しばかり戻って来ると、イエス書館の横から折れて薄暗い小路をはいって行った。乞食の子供達はこの時とばかりもう一度彼の傍へまつわりついて来て手を出しながら、
「旦那、恵んで頂戴」
「恵んで頂戴」
と哀れっぽい声を絞った。彼はつい気が滅入ったようになって銅貨をばらばらと五六枚投げ与えた。子供達は奇声を上げ暗がりの
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