》いた。だが、彼の素質がおいおいと露見するにつれて、とうとう卑俗なジャーナリズムでさえ彼の文章を受けつけなくなり、文化人達は相結束して彼を文化圏内から放逐することにした。こうして身動きが出来なくなったその時から、彼は酒を飲めば柔道のことはもう一切口に出さず、いつの間にか誰に向ってでも貴様こそ監獄にほうり込まれてえのかと、こけおどかしに叫ぶようになったのだ。同時に彼はどんなことでもしおおせる男として皆から怖れられ出した。こういう男にでさえ、苟《いやしく》も時局的な言葉で迫って来る限りびくびくせねばならぬとは、朝鮮の文化人のために何という悲しむべき事であろうか。それにつれて玄竜の心も益々やけに荒《すさ》び、街で一層暴行や恐喝に猥雑な行為を働き廻るようになったが、今度は巡査にとがめたてられても、けらけらと嗤い僕のことなら大村君に聞けと呶鳴り附けるのだった。
 彼がこういうふうに人の前でいつも君附けに呼ぶ大村というのは、実は朝鮮民衆の愛国思想を深めるために編輯される時局雑誌Uの責任者である。内地から渡って来たばかりの元官吏でまだ朝鮮やその文化の事情に疎《うと》い彼は、最初に近寄って来た玄竜こそ
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