妹さん? おほほこれは面白いわね」
「そうなんですよ、そうなんですよ」と彼は我意を得たりとばかりいかにも愉快そうに叫んだ。「僕が東京を引き上げる時彼女が追いかけて来ると云って大変だったのです。兎に角田中君も今じゃ大いに芽が出て、もう中堅の作家ですよ。どうでしょう、彼を囲んで僕達が一度集ったら、その時も是非来て下さいね」
「え、それはむろん行きますわ」
「ところで、実はですね、田中君は大村君とは大学の同窓でとても親しい仲なんですよ」と後にぐっと身を反らして急に真剣な表情を作った。が、それには惨めとまでいえるようなほのかな明るい影が浮び上った。「そこで僕は田中君に大村君を口説いて貰おうという訳なんです。つまり芸術家を理解させるんですよ。そうです、これは確かにパリ娘のアンナに会ったこと以上に重大なことです。そしたらきっと僕はお寺へ行かないで済むと思うのです」
「そうですわね、それがいいですわ、それがいいですわ」女流詩人は肩をゆすぶりつつ息もせわしく心からの悦びを現わした。
「ほんとうにそうなればいいですわね」
事実小説家玄竜にしてもそう悪い人間ではなく、性根は至って弱い臆病者で、文学の才能
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