一種の保護観察なんですのね、思想犯じゃないけど……」
「そうなんですよ」と彼は泣面をかきながらおろおろ声をしぼった。「僕は明後日までには坊主になってお寺へ行かねばならんのです」そこで彼はぶるっとふるえ上り膝を乗り出した。「ところがですね、実に素晴しいことには、東京の作家で僕の親友でもある田中君が京城へ来ているんです。是非会いたいということで先程朝鮮ホテルへ行ったけれど、とても遅かったので奴さんはしびれを切らして、大村君あたりと一緒に出掛けたらしいのです、あまり気の毒なんで僕はこれから捜しに行こうとするところです。何なら紹介して上げましょうか、朝鮮のジョルジュ・サンドとして又僕のリーベとして……」
「…………」詩人は目をつぶって嫣然《えんぜん》と笑った。彼女はいよいよ若い大学生と待ち合わせていることをすっかり忘れてしまった。「え有難う、紹介して戴きますわ」
「そうしたら」玄竜はじいっと彼女の笑顔を見つめていたが瞬間、そうだ今晩は久し振りにこの女を連れて帰るんだとひとり肚《はら》で定め込み、
「これを聞くと田中君の妹が妬きましょうぜ、へへへ」
「あら、そうでしたの、東京の恋人ってその方のお
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