はその時体を反らしていかにも莫迦《ばか》にしたように、
「朝鮮語か」
と一言あしらってせせらわらった。ここにおいてついに李明植は心燃え上り皿を取り上げてぶち投げた。皆はどっと騒ぎ出した。だが彼は頭を打たれて仰向けに倒れてからも不貞腐《ふてくさ》れたように尚けらけらと笑い続け、李明植は傷害のかどで検挙されたことは既に御承知である。後から彼は会場を出て一人で新町の廓の中へ浮れ込んで行って、どこか安い銘酒屋でウイスキーを何杯もひっかけるなり、その足で娼家の門をくぐったものである。彼はそれを思い出すと何となく気恥しくもあり又おかしくもなってくすりと笑ってしまった。それからまぎらわせるように慌てて立ち上りかけた。
「何時頃でしょうか」
「まあいいじゃありませんの、本当にせっかちですこと」と云いながら、文素玉はちらっと腕時計を覗いた。「まだ六時前ですのよ。そらおコーヒーを早く持って来てよ」
「じゃついでにトーストも貰いましょうかね」と云って、釣り込まれるように再び玄竜は腰を下ろした。
「……それでです。何しろ社長の大村君がじきじきやって来られたんじゃね、とうとう僕も参って書いてやったんですよ。す
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