者の芸術のためには、理解ある内地の文化人の支持と後援のもとに、どしどしいい翻訳機関でも拵《こしら》えて紹介するように努めるがいい。内地語か然らずんば筆を折るべしという一派の言説の如きは余りにも言語道断である」そこで急に卓を叩いて立ち上った。
「それでだ! 玄竜、君はこの問題をどう考えるんだ?」
 玄竜を睨み附ける目からは火が出るようだった。彼は瞬間すくみ上ったことである。その実玄竜は体《てい》よく愛国主義の美名のもとに隠れて、朝鮮語での述作はおろか言語そのものの存在さえも政治的な無言の反逆だと讒誣《ざんぶ》をして廻る者の一人なのだ。それでなくてもこういう純粋な文化的な述作行動も、朝鮮という特殊な事情から、その本来的な芸術精神さえがややもすれば政治的な色彩を帯びているものとして、当局の誤解を招き易いと云えば云える。殊に事変以後その危惧は一層甚しかるべきである。玄竜はそれにつけ込んで愛国主義をふりかざし人々を売りつけながらのさばり廻っているのだった。それでどれ程多くの無実な人々が不安と焦躁、苦悶の深淵に突き落されたことだろうか。実際この会合は玄竜一派の言説に対する批判会だったのである。玄竜
前へ 次へ
全74ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
金 史良 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング