ると奴さんすっかり悦びやがって僕を引っぱり出してね、ぐでんぐでんに酔っぱらわせてあのノイエ・シュタットに連れ込んだんですよ。ところが、それがね、メロンのように頬の黄色い女でしたよ……」
それからこのメロンのようにという言葉がとても肉感的に思われて自分ながらすっかり気に入ったらしく、もう一度繰り返して強調した。
「メロンのようにね」
さすがの女流詩人も彼が臆面もなく行って来たというその意味がやっと分ったとみえわれ知らず顔を火照《ほて》らしたが、それでも自分の気づまりな様子をみせては安っぽく見られるに違いないと思い返して、いかにもそれはもうとっくによく知っているけれどといった調子でこう応じたのだ。
「よかったんですわね、……素敵ね。それでも玄さんをお寺へ入れるというお方が、よくまあそんな所へ連れて行きましたのね」
「だからですよ」と小説家は顔の筋肉をひきつらせて慌てたように叫んだ。「それだから官僚たちの気はどうも分らんというのですよ。一種の気紛れなんですね。要するに大村君は僕という人間がまだ分っていないんです。つまり尋常でない芸術家が分らんのです」
「そうね」女流詩人は愁然として肯いて
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