式に分けてみようといった手合とか、或はどこかに製作費を出すような莫迦《ばか》息子はいないものかと、首をひねり合うちょび髭を生やした映画不良やら、何かこそこそと隅っこで企《たくら》み合う金山ブローカー達、原稿用紙の束を片手に持って歩かねば芸術家でないと思い込んでいる低級な文学青年、そういった連中ばかりだが、さすがに彼等も二三時間以上も頑張っておれば、話題は尽き頭も疲れていた折なので、突然玄竜が現われ美しい女流詩人と向い合うようになったことは、確かに興味深いことに相違なかった。京城の文化社会で誰一人知らぬものはない二人が偶然そろいもそろって対坐した訳である。それに文素玉は玄竜にとっては単なる女流詩人ではないということも、彼等はよく知っていたのである。
「今日は又どうなさいまして」
 彼女はわざと恥らうように口元へハンケチをあてがった。
「実は――ヘーノイエ・シュタット(新町)に行って来たんですよ」と云って、玄竜はいかにも好奇心をそそるようににやにやと笑いを浮べた。むろん女流詩人はそのドイツ語の意味を知るよしもなかったので、
「え?」
 と目を丸くするや、彼はいよいよ得意げに腹の皮をよじらせ
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