つつ笑うのだった。そして又思い出したようにふふふと笑った。頽廃のかげりを宿した彼女の頬には紅潮がほんのりとさし現われ、ちぢれた前垂れの髪はゆらぐかの如く見えた。玄竜は急に痙攣でも起したように強ばって、ぐっと食い入る目附で彼女の顔を凝視した。
 軽薄な女流詩人文素玉は玄竜をこの上もなく尊敬しているのだった。彼はいみじい詩の言葉、ラテン語やフランス語を知っているばかりか、彼女の好きなランボウやボードレールともただ国籍を異にしているだけに過ぎないと彼女は固く信じている。玄竜は又自分でもそう嘯《うそぶ》き廻っていた。何しろ彼女は詩人としてもランボウの詩を幾つかもじってみた位のところであるが、それを玄竜が二三流の雑誌に担ぎ上げて彼女の美貌と共にその前途を謳《うた》ったのだ。彼女がすっかり詩人になった気取りで、人の出版記念会とやらにはどういうことがあっても出席するようになったのも、それ以来のことである。彼女が目もまがうようなあでやかな姿で会場に現われると、玄竜は何時もぶるっと立ち上ってこっちへ、こっちへいらっしゃいと自分の傍へ連れて来るのだった。彼女も所詮は現代の朝鮮が生み出した不幸な女性の一人で
前へ 次へ
全74ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
金 史良 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング