れ知らずにこりと笑った。一杯人々のとぐろを巻いているさ中に、目もさめるばかり真白く着飾った女流詩人文素玉が、百合のように楚々《そそ》と坐っていたのだ。彼は急に幸福な気持になって転ぶようにその中へはいって行った。有名な玄竜が現われたので人々はお互い突つき合ったり、ぷっと吹き出したり、わざと蔑《さげす》むようにそっぽを向いたりしていた。女流詩人は丁度若い大学生の恋人を待っていたところだが、こういう注視の的《まと》の小説家が自分の方へやって来る嬉しさに、つい何もかも忘れてしまい、やや大きいめの脣を歪めて含み笑いながら彼を迎えたのだ。
「あらまあ、玄さん、珍しいですこと」
「へへえ、これは又|至極《しごく》面白いところで……」
 と近附くや、玄竜は彼女の向い側の方にどっかりと坐り込んだ。皆の好奇の目は一斉にこの二人の方へ注がれた。尤《もっと》も彼等は皆とっくからもう退屈していた。だが、退屈といえば毎日のように退屈な連中ばかりである。所謂《いわゆる》茶房の彼等も亦現在の朝鮮の社会が生んだ特別な種族の一つであろう。少しばかり学問はあるが職は与えられず、何もなすことがないので髪でもクラーク・ゲーブル
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