化の類ある事なしという実感の方を肯定しているのである。
[#挿絵(fig46521_01.png)入る]
 ところで、怪力乱神を語りたがる人とても無論、この唯物的合理性本能は持っていようし、殊に今日のように学問の力でお化け退治の一と先ずは[#「一と先ずは」に傍点]済んだ世の中にあっては一通り理論上では御化けを否定は出来るにかかわらず、やはり何となく御化けが好きなのである[#「御化けが好きなのである」に白丸傍点]。
 さて手っとり早く言ってしまえば、心から妖怪を信じる人は別として(そういう人はある、その人はまたいろいろな実験からたしかに信じているのでまた一つの感じがある)大てい妖怪談を好んで語る人は、一、多少嘘つき、一、反省の足らぬ人、一、他人の中にあって談ずるに、自己を持す意力の弱い人、一、甚だしく遊戯的気分の多い人、一、話の興味のために自己を偽る人、一、甚だしく対他的興味の強い人、一、芝居気のある人、一括していえば性格の弱い人が多いと思える。つまり才子風の人が多いと思う。
 だから、御化けの話を好む人は大てい、意地の悪くない、多少他人に対して臆病な、好人物が多い。これに対して、化物は
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