巨富を擁しつつある少数の大金持ちがいるためである。[#地から1字上げ](九月十八日)

       三の一

 故|啄木《たくぼく》氏は
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はたらけど
はたらけどなおわが生活《くらし》楽にならざり
じっと手を見る
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と歌ったが、今日の文明国にかくのごとき一生を終わる者のいかに多きかは、以上数回にわたって私のすでに略述したところである。今私はこれをもってこの二十世紀における社会の大病だと信ずる。しかしてそのしかるゆえんを論証するは、以下さらに数回にわたるべき私の仕事である。
 貧乏がふしあわせだという事は、ほとんど説明の必要もあるまいと考えらるるが、不思議にも古来学者の間には、貧乏人も金持ちもその幸福にはさしたる相違の無いものであるという説が行なわれておる。大多数の諸君の知らるるごとく、アダム・スミスは近世経済学の開祖とも称さるべき人であるが、氏が今より百五十余年前(一七五九年)に公にした『道徳感情論』を見ると、氏は次のごとく述べている。
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「……肉体の安易と精神の平和という点においては、種々の階級の人々がほとんど同じ
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