平準にあるもので、たとえば大道のそばでひなたぼこをなしつつある乞食《こじき》のもっている安心は、もろもろの王様の欲してなお得《う》るあたわざるところである*」
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* Adam Smith, The Theory of Moral Sentiments, 6th ed., 1790. p. 311.
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 ただ今|嵯峨《さが》におらるる間宮英宗《まみやえいそう》師は禅僧中まれに見る能弁の人であるが、その講話集の中には次のごとき話が載せてある。前に掲げたるアダム・スミスの一句の注脚とも見なすべきものゆえ、これをそのまま左に借用する。
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「昔五条の大橋の下に親子暮らしの乞食《こじき》が住んでいました。もとは相応地位もあり財産もあった立派な身分の者でありましたが、おやじが放蕩無頼《ほうとうぶらい》に身を持ちくずしたため、とうとう乞食とまで成り果てて今に住まうに家もなく、五条の橋の下でもらい集めた飯の残りや大根のしっぽを食べて親子の者が暮らしていたのであります。ところがちょうどある年の
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