泣Y国中の最も小なる二郡とあえて軒輊《けんち》なき人口を有するに過ぎざる二小国(トランスヴァールとオレンジ自由国)」に対し、武力をもってその要求を強制せんとするは、非道のはなはだしきものである。大英国にとって最大の宝は、「すべての国の弱き者、しいたげられおる者のために、その希望たり楯《たて》たる特性すなわちこれである。こはこの大英国の栄光中最も赫耀《かくよう》たる霊彩を放てる宝玉である。」(ロイド・ジョージ演説中の一句、内《うち》ヶ|崎《さき》作三郎《さくさぶろう》君の訳による)。南アの辺境にいかに莫大《ばくだい》の金銀を蔵すればとて、大英国伝来のこの宝玉と交換せんとするは、無道の極であると。すなわち一八九九年彼カナダにおもむくの途中一たび開戦の報を耳にするや、彼は直ちに踵《くびす》をめぐらし、馳《は》せてロンドンに帰り、即時に猛烈なる非戦運動を始めたのである。
 国民全体が戦争熱に浮かされているまっただ中に、それら熱狂せる同胞を非難攻撃して、非戦運動を始むるほど世に無謀な仕事はない。彼の友人、彼の同情者、彼の後援者は、こぞってこの無謀なる事業に反対し、彼がせっかくの人気をば一朝にして
前へ 次へ
全233ページ中223ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
河上 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング