、でしはべりけるに、上人《しょうにん》出合い、この道無をば見もやらで、かの金持ちの男をあながちにもてなし、……さてさておぼしめし寄りての御参詣かな、仏法の内いかようの大事にても御尋ね候え、宗門のうちにての事をば残さず申しさずけんとて、まことに焼け鼠《ねずみ》につける狐《きつね》のごとくおどり上がりはしりつつ色をかえ品をかえて馳走《ちそう》なり。この道無かねて金の浮世と存ずれば、すこしも騒がず、ちと用あるていにもてなし門前にいで、小石を銀ならば二まいめほどに包んで懐中し、元の座敷に居なおりつつ上人に打ちむかい、ふところより取り出しさし寄り申しけるは、近きころ秘蔵の孫を一人失い申しけるまことに老いの身の跡にのこり、若木の花のちるを見て、やるかたなき心ざしおぼしめしやらせたまえ、せめて追善のために細心《ほそこころ》ざしさし上げ申すなりとて、一包さし出しはべれば、上人にわかに色をなし、さてさて道無殿は物にかまわぬ一筋なる御人にて、御念仏をも人の聞かぬように御申しある人なりと、常々京都の取り沙汰《ざた》にてはべるよし、一定《いちじょう》誠に思いいらせたまえる後世者《ごせしゃ》にてわたらせおわしま
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