ゆく今の貧しさ
老妻のたゞ所在なく坐しをるに所在なくまた我も居向ふ
[#地から1字上げ]三月三十一日、四月五日

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わが家の庭は三坪に足らざれど東隣の桜、枝を伸ばして爛漫たる花をつけたり
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生籬の上越す隣の桜花けふをさかりと咲きにけるかな

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堀江君夫妻来訪、庭に咲きたりとてくさ/゛\の水仙を贈らる
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水仙は白きぞよけれ青き葉に映る真白の色のゆかしも
[#地から1字上げ]四月十一日

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送春
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盡日看雲坐  尽日雲を看て坐し、
愁人獨送春  愁人ひとり春を送る。
落花絲雨裡  落花糸雨の裡、
塵外刑餘身  塵外刑余の身。
[#地から1字上げ]五月五日

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明月
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難忘幽圄月  忘れがたし幽圄の月。
今夜月光圓  こよひ月光まどかなり。
歩月人迷野  月に歩して人は野に迷ひ、
照人月度天  人を照らして月天をわたる。
[#地から1字上げ]五月十二日

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初夏雑詠 二首
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