けきいのち一日経にけり(昭和三年春大学を退きし前年の冬より今に至るまで正に十有五年を経たり)[#地から1字上げ]十二月二十日
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雑詠
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わが歌はわが子の如しみにくくも生まれし歌はみな棄てがたし[#地から1字上げ]十二月六日
干柿《ほしがき》は一つ十銭と聞きつつもけふの一日《ひとひ》に三つ食ひけり
あぢはひのよろしきろかも老妻《おいづま》のかしげるものはなべてよろしも
九時すぎてさてと言ひつつ銭湯に出でゆく妻の下駄のあしおと
夜はふかみ街《まち》のとよみの消ゆなべに老ひにし耳に蝉なきやまず
鳴きしきる虫をまぢかに聞くごとし聾ひにし耳のよもすがら鳴る
眼も遠き耳さへ遠く心また遠きくにべを思ひをるかな
炬燵火《こたつび》にもろ手もろ足さし入れて心に浮ぶうたかたを追ふ
忽ちにかき曇りつつ雪ふりて忽ちに陽《ひ》は照る京の冬空
買物の列に立ちゐる妻を待ち吹雪のやむを祈りつつをり
看板はみな偽りとなり果てて餅屋に餅なくそばやにそばなく[#地から1字上げ]十二月二十日
ハム買ふと長蛇の列に加はりて二時間待ちてはつはつに買ふ[#地から1字上げ]十二月二十二
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