海|八十《やそ》の島々
うみこえていやすくよかにならせつつとくかへりませ京のひがしに[#地から1字上げ]十二月十七日

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白石※[#「山/品」、第3水準1−47−85]君の招待にて南座顔見世興行を観る
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いにし日のなごりかそけきうつそみのけふいめのごと南座に入る
ととせまへはつちにひそみて朝な夕な陽《ひ》の光さへ避けゐたるわれ
教へられやうやうに知る魁車の顔も声もみな忘れをり
大きかりし幸四郎も肉《しし》やせて声のちからも衰へけるか
遠つ世の夢路に会ひし人かとも名も変りゐる梅王を見守《まも》る
ふと思ふ大鼓《たいこ》鳴りて松王出でし二時の半ばはひとやのゆふげ(刑務所の夕食は十二月中午後三時半の定なれど日曜日祭日などは一時間繰り上げて二時半なりそれより全く火の気といふものなく窓の隙間よりは木枯の吹き入る監房の中にて湯さへ飲み得ず袷の股引を素肌に穿ちつつ便器に腰かけ就寝時間の来たるを待つ間の寒かりしこと長かりしこと今においてなほ忘られず歓楽の境に入り温飽の身を感ずる毎に忽ちにして当年を想起するを常とするなり)
十五年見ざりしものをけふ見つつゆた
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