愛するところ
迢迢雲外鐘  迢々たる雲外の鐘
一日聾一日  一日は一日より聾し
清音又難逢  清音又た逢ひ難し
今夜天如洗  今夜《こよひ》天洗ふが如く
風露秋意濃  風露秋意濃し
仰月臥南※[#「片+(戸の旧字+甫)」、第3水準1−87−69]  月を仰いで南※[#「片+(戸の旧字+甫)」、第3水準1−87−69]《ナンイウ》に臥し
一牀聽砌蛩  一牀砌蛩を聴く
[#地から1字上げ]九月二十五日

[#ここから4字下げ]
殺人犯人
[#ここから5字下げ]
私が小菅刑務所に居た頃、私の監房がそれに属してゐた独居監房一翼の雑役夫をしてゐた受刑者は、癲癇もちの吃で、再犯の殺人犯人であつた。それが再びこの娑婆に出て居る筈はないのだが、今日銭湯で湯舟にはいらうとする途端に、その男がずんぶり湯につかつて居るのを見て、私はほんとにびつくりした。もちろん人違ひだつたのだが
[#ここで字下げ終わり]
ともに居し殺人犯人にふと出会ひ人違ひかと湯舟にはいる
ゆくりかに殺人犯人の顔を見て人違ひなるに胸をなでけり[#地から1字上げ]九月二十七日

[#ここから4字下げ]
漸く無為にして過ごす日あり
[#ここで
前へ 次へ
全75ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
河上 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング