ほとり
一|簷《エン》の蝸廬を賃し、
門を閉ぢ客を謝し得て
住むこと已に五年。
たまたまここにして
一千年前の宋人《ソウひと》
陸放翁に邂逅す。
渭南文集五十巻、
剣南詩稾八十五巻、
詩一万余首。
何の幸ぞ、
砲声坤軸を動かす時、
紅塵万丈の巷に在りて、
ひとりわれ前輩《ゼンパイ》に侍し、
驢に騎《の》りて桟路に
早梅の暁《あかつき》をめで、
兎を焼いて駅亭に
微雪の夜《よる》を愛す。
静かなるかな
こころ太古の民の如し。
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焼兎駅亭微雪夜、騎驢桟路早梅時は、放翁の句中、余の愛誦するものの一なり
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[#地から1字上げ]八月二日夜
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老いて菲才を歎く
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われもまた
ありし形見ぞとほつ世に
物のこさんとねがひしも
筆を執ること四十年
ただ文屑《ふみくづ》のみぞうづたかき
墓に入る日も近かからむ
骨をさすりて菲才を歎く
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偶※[#二の字点、1−2−22]佐藤春夫の支那歴朝名媛詩鈔、車塵集を読み、七歳の少女なほよく詩を千歳にのこし居るを見、悵然として感あり、この小詩を賦す
[#こ
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