ば疲れし頃に小橋あり腰をおろして煙草のむべく
畑中の小溝の水は澄みわたりゆらぐ藻草の美しきかな
つぎ/\に拓かれてゆく郊外に取り残されし稲荷のやしろ
畑中の小高き丘の松蔭の洋館のあるじ誰ならむ
藁葺にまじりて白堊の家もあり赤き屋根あり青き屋根あり[#地から1字上げ]十二月二十二日

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歳暮 二首
[#ここで字下げ終わり]
老妻を喜ばさんと欲りすれど金もはいらで歳はくれゆく
白粥に柚味噌添へて食《たう》べたり奥歯のいたむ霜寒の朝
[#地から1字上げ]十二月二十七日
[#改段]

  〔昭和十三年(一九三八)〕

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刑余安逸を貪る
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   一
膝を伸ばせば足が出る、
首を伸ばせば枕が落ちる、
覗き穴から風はヒュー/\。
ほんたうに冬の夜の
牢屋のベッドはつらかつた。
   二
今は毛布の中にくるまり、
真綿の蒲団も柔かに、
湯タンポで脚はホカ/\。
ほんたうに仕合せな
今歳の冬は弥生の春よ。
[#地から1字上げ]一月九日

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閑居
[#ここで字下げ終わり]
盡日無人到  尽日人の到るなく、
時紛不復聞
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