や思ひ残すこともない。
私は自分の微力を歎じるよりも、むしろ
力一ぱい出し切つたことの滿足を感じてゐる。
「ご苦労であつた、もう休んでもよいよ」と
私は自分で自分をいたはる気持である。
牢獄を出て来た後の残生は、
謂はゞ私の生涯の附録だ、
無くてもよし、有つてもよし、
短くてもよし、長くてもまた強ひて差支はない。
私は今自分のからだを自然の敗頽に任せつつ、
衰眼朦朧として
ひとり世の推移のいみじさを楽む。
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[#地から1字上げ]四月十三日
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雑詠 二首
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われは歌よみの歌を好まず思ふことありて歌へる歌を好む
閑居して思ふことなく日を経れば天地を忘れまた我をも忘る[#地から1字上げ]四月中旬
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野球試合の見物に出掛けたる途上の口吟 二首
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老いぬともこゝろひからび年経たる紙の花輪に似んはものうし
老いらくの身のはかなさを思へばか今年の春のそゞろに惜まる[#地から1字上げ]五月十九日
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近來頻耽碁、賦一詩頒棋友
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抛筆忘時事
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