に今夜の月の照れるらむ君ひとり寐《ぬ》る窓の格子に[#地から1字上げ]八月七日

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幽居雑詠 三首
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われもまた深山の奥の苔清水有るか無きかのかそけさに生く
遠寺の鐘にゆられて雛罌粟の風なきゆふべ散るがに死なむ
老い去りて為すこともなく日を経れば明日にも死して悔なしと思ふ[#地から1字上げ]八月七日

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重ねて獄中に寄す
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君も来ず我も行き得ずことしまた秋風吹きてやがて暮れなむ[#地から1字上げ]九月一日

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母上より手紙来たる、おさびしき様子にて気になる
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秋の陽の窓にかたむく書斎にて母思ひつゝさびしみてをり[#地から1字上げ]九月二日

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偶成
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隠れ死ぬ手負の猪《しし》のふしどぞと都のほとりわれいほりせり[#地から1字上げ]九月二十七日

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第六十囘誕辰當日敍懷 二首
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一身痩盡如枯葉  一身痩せ尽して枯葉の如く、
萬境踏來似隔生  万境踏み来りて生を隔
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