司法省に保存してある秘密文書の中から、それを書き抜いて来て、私に見せてくれられたことがある。短いものだから其の全文を写し取つて置けばよかつたのに、今では惜しいことをしたと思ふ。
惜しいと云へば、「断片」の原稿の無くなつたのも残念である。私は改造社に頼んで、一旦印刷所へ廻されて活字の号数などが赤インキで指定してある其の草稿を、送り返して貰つた。私はそれを特別に大事なものに思ひ、余り大事にし過ぎ、家宅捜索など受けるやうな場合に没収されてはと、別置きにして居たものだから、書類整理箱のどの抽出しを調べて見ても、今は見付からない。
五
さて以上の思ひ出を書き了へて、私のつくづく思ふことは、私は実に運の善い男だと云ふことである。
もう今では紙の縁が黄いろくなつてゐる当年の『改造』を出して見ると、「断片」の中には、一九〇四年に内務大臣シピアギン、ウーファ知事ボグダノウ※[#小書き片仮名ヰ、85−3]チ、カールコフ知事オボレンスキー公などの暗殺を計画し指揮した青年テロリスト、グリゴリ・ゲルシュニーが死刑の宣告を受けた場合のことが、最初の方に誌されてゐるが、(このゲルシュニーは一旦死
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