]上捲簾時    楼上簾を捲くの時、
滿樓[#「樓」に白丸傍点]雲一色    楼に満つ雲一色。
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 家鉉翁(晩唐)の寄江南故人と題する次の詩も、やはり同字の重畳に面白味がある。

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曾向錢唐[#「錢唐」に白丸傍点]住    曾て銭唐に向つて住し、
聞鵲憶蜀[#「蜀」に白丸傍点]郷    鵲を聞いて蜀郷を憶ひき。
不知今夕夢    知らず今夕の夢、
到[#「到」に白三角傍点]蜀[#「蜀」に白丸傍点]到[#「到」に白三角傍点]錢唐[#「錢唐」に白丸傍点]    蜀に到るか銭唐に到るか。
[#ここで字下げ終わり]

 銭唐は今の浙江省の銭塘で、即ち江南であり、蜀は今の四川省に当る北地。向つては於いてと云ふに同じ。作者は今、郷里の蜀地にも居らず、また曾て住みたる銭塘にも居らず、却て友人の銭塘に在るを憶へるのである。
 張文姫(鮑参軍妻)渓口雲詩にいふ、溶溶渓[#「渓」に白丸傍点]口雲、纔向渓中[#「渓中」に白丸傍点]吐、不復帰渓中[#「渓中」に白丸傍点]、還作渓中[#「渓中」に白丸傍点]雨(溶々たる渓口の雲、纔に渓中に向つて吐く。復び渓中に帰らず
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