てゆく見も知らぬ世界、而して遂には生活の渦中に溶けこんで何んの不思議でもなくなつて行くそれ等の不思議な變化、さうしたものが僅かな皮肉に包まれたやみがたい女性の執着によつて表現されてゐる。是等の作品の中には、作者の眞摯な藝術的熱情と必至的な創作慾とが感ぜられて快い。
然し第二の作品に來ると、ある倦怠が感ぜられないでもない。「一粒の芥子種」「夜の浪」「淋しい二人」などがそれである。作者はこゝで自分の持つてゐるものを現はすために不必要な多くの道具立てに依らうとした所が見える。それは現さうとするものが、まだ十分に咀嚼されてゐないのを示してゐる。固よりかゝる作に於ても仙子氏は自分のよい本質から全く迷ひ出てはゐない。ある個所に來ると心ある讀者は一字々々にしがみ附かないではゐられなくなる。「淋しい二人」の中の秋の景色の描寫の如きは、今まで提供された秋の描寫のどれに比べて見ても決して耻づる必要のないものであるとうなづかされる。けれども全體としての感銘は、作者の生活にある一時的なゆるみが起つたのを感じさせないではおかない。
作者の畏れなければならないのはその人の生活だといふことを今更らの如く感ずる。
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