水野仙子氏の作品について
有島武郎
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(例)とう/\
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仙子氏とはとう/\相見る機會が來ない中に永い別れとなつた。手紙のやりとりが始つたのも、さう久しい前からのことではない。またその作品にも――創作を始めて以來、殊に讀書に懶くなつた私は――殆んど接したことがないといつていゝ位で過して來た。そのうちに仙子氏は死んでしまつた。その死後私は遺作の數々を讀まして貰つて、生前會つておくべき人に會はずにしまつたといふ憾みを覺えることが深い。
仙子氏は、作者として、普通いふ意味で不幸だつた人の一人に屬すると思はれる。彼女の作品は恐らく少數な讀者によつてのみ鑑賞された。評壇もその作品に注意することが極めて吝かであつたらしい。然し仙子氏はそんな取扱ひを受くべき人ではなかつたと私は思はざるを得ない。
仙子氏の藝術的生活には凡そ三つの内容があつたやうに思はれる。第一に於て、彼女は自分の實生活を核心にして
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