、その周圍を實着に――年若き女性の殉情的傾向なしにではなく――描寫した。而してそこには當時文壇の主潮であつた自然主義の示唆が裕かに窺はれる。第二に於て、作者は成るべく自己の生活をバツク・グラウンドに追ひやつて、世相を輕い熱度を以て取扱つて、そこに作家の哲學をほのめかさうとしたやうに見える。第三に至つて作者は再び嚴密に自己に立還つて來た。而して正しい客觀的視角を用ゐて、自己を通しての人の心の働きを的確に表現しようと試みてゐる。
この集には第一の作品は多分はもらされてはゐるけれども、「十六になつたお京」「陶の土」「娘」「四十餘日」の如きはその代表的なものといつていゝだらう。そこには殉情的な要求から來た自己陶醉に似た曖昧な描寫がないではないけれども、その觀察の綿密で、而して傅習的でない點に於て、彼女の末期の作品に見られる骨組みの堅固さを見せてゐる。而してその背後には凡てのよいものも惡いものも、はかない存在の縁から切り放されて、忘却のあなたに消え去つて行く、その淋しい運命に對しての暖かい冷やかさが細々と動いてゐる。少女から處女の境界に移つて行く時の不安、懷疑、驚異、煩悶、つぎ/\に心内に開け
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