の顔に蚯蚓ばれが出来ていると婆やのいったのが気がかりで、もしかするとお母さんにも叱《しか》られるだろうと思うと少し位《ぐらい》碁石は取られても我慢する気になった。何しろ八っちゃんよりはずっと沢山こっちに碁石があるんだから、僕は威張っていいと思った。そして部屋の真中《まんなか》に陣どって、その石を黒と白とに分けて畳の上に綺麗《きれい》にならべ始めた。
八っちゃんは婆やの膝《ひざ》に抱かれながら、まだ口惜《くや》しそうに泣きつづけていた。婆やが乳をあてがっても呑《の》もうとしなかった。時々思い出しては大きな声を出した。しまいにはその泣声が少し気になり出して、僕は八っちゃんと喧嘩《けんか》しなければよかったなあと思い始めた。さっき八っちゃんがにこにこ笑いながら小さな手に碁石を一杯《いっぱい》握って、僕が入用《いら》ないといったのも僕は思い出した。その小さな握拳《にぎりこぶし》が僕の眼の前でひょこりひょこりと動いた。
その中《うち》に婆やが畳の上に握っていた碁石をばらりと撒《ま》くと、泣きじゃくりをしていた八っちゃんは急に泣きやんで、婆やの膝からすべり下りてそれをおもちゃにし始めた。婆やは
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