御免《ごめん》なさいと仰有《おっしゃ》いまし。仰有らないとお母さんにいいつけますよ。さ」
誰《たれ》が八っちゃんなんかに御免なさいするもんか。始めっていえば八っちゃんが悪いんだ。僕は黙ったままで婆やを睨みつけてやった。
婆やはわあわあ泣く八っちゃんの脊中を、抱いたまま平手でそっとたたきながら、八っちゃんをなだめたり、僕に何んだか小言《こごと》をいい続けていたが僕がどうしても詫《あやま》ってやらなかったら、とうとう
「それじゃよう御座《ござ》んす。八っちゃんあとで婆やがお母さんに皆んないいつけてあげますからね、もう泣くんじゃありませんよ、いい子ね。八っちゃんは婆やの御秘蔵《ごひぞう》っ子。兄さんと遊ばずに婆やのそばにいらっしゃい。いやな兄さんだこと」
といって僕が大急ぎで一《ひと》かたまりに集めた碁石の所に手を出して一掴《ひとつか》み掴もうとした。僕は大急ぎで両手で蓋《ふた》をしたけれども、婆やはかまわずに少しばかり石を拾って婆やの坐《すわ》っている所に持っていってしまった。
普段なら僕は婆やを追いかけて行って、婆やが何んといっても、それを取りかえして来るんだけれども、八っちゃん
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