それを見ると、
「そうそうそうやっておとなにお遊びなさいよ。婆やは八っちゃんのおちゃんちゃんを急いで縫い上《あげ》ますからね」
といいながら、せっせと縫物《ぬいもの》をはじめた。
僕はその時、白い石で兎《うさぎ》を、黒い石で亀《かめ》を作ろうとした。亀の方は出来たけれども、兎の方はあんまり大きく作ったので、片方の耳の先きが足りなかった。もう十ほどあればうまく出来上るんだけれども、八っちゃんが持っていってしまったんだから仕方がない。
「八っちゃん十だけ白い石くれない?」
といおうとしてふっと八っちゃんの方に顔を向けたが、縁側の方を向《むい》て碁石をおもちゃにしている八っちゃんを見たら、口をきくのが変になった。今喧嘩したばかりだから、僕から何かいい出してはいけなかった。だから仕方なしに僕は兎をくずしてしまって、もう少し小さく作りなおそうとした。でもそうすると亀の方が大きくなり過《すぎ》て、兎が居眠りしないでも亀の方が駈《かけ》っこに勝《かち》そうだった。だから困っちゃった。
僕はどうしても八っちゃんに足らない碁石をくれろといいたくなった。八っちゃんはまだ三つですぐ忘れるから、そうい
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