ちゃんが助かるんではないかと思って、すぐ坐蒲団を取りに行って来た。
お医者さんは、白い鬚《ひげ》の方のではない、金縁《きんぶち》の眼がねをかけた方のだった。その若いお医者さんが八っちゃんのお腹《なか》をさすったり、手くびを握ったりしながら、心配そうな顔をしてお母さんと小さな声でお話をしていた。お医者の帰った時には、八っちゃんは泣きづかれにつかれてよく寝てしまった。
お母さんはそのそばにじっと坐《すわ》っていた。八っちゃんは時々|怖《こ》わい夢でも見ると見えて、急に泣き出したりした。
その晩は僕は婆やと寝た。そしてお母さんは八っちゃんのそばに寝なさった。婆やが時々起きて八っちゃんの方に行《ゆ》くので、折角《せっかく》眠りかけた僕は幾度も眼をさました。八っちゃんがどんなになったかと思うと、僕は本当に淋《さび》しく悲しかった。
時計が九つ打っても僕は寝られなかった。寝られないなあと思っている中《うち》に、ふっと気が附《つ》いたらもう朝になっていた。いつの間に寝てしまったんだろう。
「兄さん眼がさめて」
そういうやさしい声が僕の耳許《みみもと》でした。お母さんの声を聞くと僕の体はあた
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