たかになる。僕は眼をぱっちり開いて嬉《うれ》しくって、思わず臥《ね》がえりをうって声のする方に向いた。そこにお母さんがちゃんと着がえをして、頭を綺麗《きれい》に結《い》って、にこにことして僕を見詰めていらしった。
「およろこび、八っちゃんがね、すっかりよくなってよ。夜中にお通じがあったから碁石が出て来たのよ。……でも本当に怖《こわ》いから、これから兄さんも碁石だけはおもちゃにしないで頂戴ね。兄さん……八っちゃんが悪かった時、兄さんは泣いていたのね。もう泣かないでもいいことになったのよ。今日こそあなたがたに一番すきなお菓子をあげましょうね。さ、お起き」
といって僕の両脇に手を入れて、抱き起《おこ》そうとなさった。僕は擽《くすぐ》ったくってたまらないから、大きな声を出してあははあははと笑った。
「八っちゃんが眼をさましますよ、そんな大きな声をすると」
といってお母さんはちょっと真面目《まじめ》な顔をなさったが、すぐそのあとからにこにこして僕の寝間着を着かえさせて下さった。
底本:「一房の葡萄 他四篇」岩波文庫、岩波書店
1988(昭和63)年12月16日改版第1刷発行
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