王子の肩のあたりからできるだけ大きな金の板をはがして重そうにくわえて飛び出しました。二人の乞食は手をつなぎあって今日はどうして食おうと困《こう》じ果てています。燕は快活に二人のまわりを二、三度なぐさめるように飛びまわって、やがて二人の前に金の板を落としますと、二人はびっくりしてそれを拾い上げてしばらくながめていましたが、兄なる少年は思い出したようにそれを取上げて、これさえあれば御殿の勘当《かんどう》も許されるからと喜んで妹と手をひきつれて御殿の方に走って行くのを、しっかり見届けた上で、燕はいい事をしたと思って王子の肩に飛び帰って来て一部始終の物語をしてあげますと、王子もたいそうお喜びになってひとかたならず燕の心の親切なのをおほめになりました。
 次の日も王子は燕の旅立ちをきのどくだがとお引き留めになっておっしゃるには、
「今日は北の方に行ってもらいたい。あの烏《からす》の風見《かざみ》のある屋根の高い家の中に一人の画家がいるはずだ。その人はたいそう腕《うで》のある人だけれどもだんだんに目が悪くなって、早く療治《りょうじ》をしないとめくらになって画家を廃《はい》さねばならなくなるから、ど
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