、今日こそはしたわしいナイル川に一日も早く帰ろうと思って羽毛《うもう》をつくろって羽ばたきをいたしますとまた王子がおよびになります。昨日《きのう》の事があったので燕は王子をこの上もないよいかたとしたっておりましたから、さっそく御返事をしますと王子のおっしゃるには、
「今日はあの東の方にある道のつきあたりに白い馬が荷車を引いて行く、あすこをごらん。そこに二人の小さな乞食《こじき》の子が寒むそうに立っているだろう。ああ、二人はもとは家《うち》の家来の子で、おとうさんもおかあさんもたいへんよいかたであったが、友だちの讒言《ざんげん》で扶持《ふち》にはなれて、二、三年病気をすると二人とも死んでしまったのだ、それであとに残された二人の小児はあんな乞食になってだれもかまう人がないけれども、もしここに金の延べ金があったら二人はそれを御殿《ごてん》に持って行くともとのとおり御家来にしてくださる約束《やくそく》がある。おまえきのどくだけれども私のからだからなるべく大きな金をはがしてそれを持って行ってくれまいか」
燕はこの二人の乞食を見ますときのどくでたまらなくなりましたから、自分の事はわすれてしまって
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